神経症

 心理状態から見れば「何か特定のことに呪縛を受けている状態」と言え、行動面に着目すると「特定の事象にパターン化された何らかの反応」「苦手と云うにはあまりにも強烈な苦手」などがそうだと言えます。

 これに周りは気付いているが本人は気付いていないというケースが多く、気付いている場合も、自分ではどうすることも出来ない、というのが特徴で、統合失調症性のもの、器質因以外を総称する病名です。

 依存症、対人緊張の殆ど全て、不感症の何割か、不眠症、自律神経失調症、摂食障害のかなりのパーセント、鬱症状のおおよそ半数程度が、この範疇に入ります。

 例えば「縁がある異性がことどとく既婚者」などの、世間一般では「運」と捉えられているものは「外在化している神経症」と言えます。 少なくとも、そういう「運」を持っていると言える方は、潜在的神経症傾向を持っていると言えます。

 最初に書いた「パターン化された何らかの反応」とは言動パターン(強迫神経症)とは限りません、身体反応パターン(心身症)の場合もありますし、感情反応パターン(ヒステリー、抑うつ性神経症)の場合もありますし、思考パターン(妄想性強迫神経症、心気症)の場合もあります。括弧内はあくまで大雑把な目安でしかありませんが、なんとなく神経症の姿を理解して頂く助けにはなると思います。 実際の症状の大抵は、この内の二つ以上が入り交じり絡まり合っているのが普通です。

 これらのパターンが自律性を持ち人格化してしまったものが「人格分裂」「多重人格」(正式:解離性人格障害)です。 「分裂」という言葉が入っているので誤解している方が多いですが、精神分裂病(統合失調症)とは全然、その発生動機からして別のものです(症状として・・・つまり結果として・・・統合失調症も人格分裂症状を呈する場合はあるので話が赤子しいのだが...)。

 神経症発生のメカニズムは、まず「こころの在り方の基本」のページに書いたことが前提に無いと分かりづらいので、まずこちらを読んで下さい。

 重要なことなので重複を承知で少し触れつつ書いていきますと、、、心の状態をモデル化して、大きくゆったりグルグル回っている ”渦潮” のようなものを想像して下さい。 心の中枢部、無意識の中に、こういうイメージで語れる「いのちの洗濯機のような働きをしている ”いのちの泉”」があると考えて下さい。 この中で適度にグルグル回ってくると精神的にリフレッシュされることになる、こういうイメージです。 それと、もう一つ、渦潮の周縁部は、浅く、流れも緩やかで、中心に行けば行くほど深くなり流れも急で激しくなっていく、ともイメージして下さい。

 あくまで比喩的表現で学問的には必ずしも正確な表現ではないですが、、、海や川で泳いでいて流れに足を取られて溺れそうになった時、パニック状態を呈して、実際には溺れるほど深くなく落ち着いて足を下ろせば立つことが出来るにも関わらず、これが出来なくなってしまう時というケースが実際にありますね。こういう感じで浅瀬で溺れ一種のパニック状態に陥りもがいている(執拗に何度も何度も空しく繰り返す)のに喩えれるのが神経症(ノイローゼ)です。 何度も何度も空しく繰り返すこと = 心の空回りから情緒不安定になったのがヒステリー(情緒障害)です。 何かのきっかけで、少し流れの急な深みに立ち入ってしまった(「まさか、こんな所に流れの急な深みがあるなんて!」という感じ)のが神経症と言える場合もあります。

 ここで問題になるのが、どうしてパニック状態に陥ってしまうのか、また普通ある筈のない所に「流れの急な深み」が存在するのか、また普通は立ち入らない程の深みに立ち入ってしまう場合はどうして発生するのか、この「理由」ですが、これが意識の側のニーズである場合と、無意識側のニーズである場合が存在するのです。

 前者は、具体的、現実的悩みや、ショックな出来事(は感情の始末を必要とする)、身体の病気、過重な借金などの生活苦などからの気患い、などが引き金となるケースです。

 後者は、広い意味で精神、心の発達、成長に関わっていると云え、これの阻害要因となる何らか(劣等感コンプレックス、トラウマ、親子兄弟関係がどこか機能不全を持っている、身体的ハンデキャップ、欲求不充足、因縁と呼ばれる代々引き継いできた家系コンプレックス、、、)を、未解決なまま放置していたり、忘れていたり、無いことにしてしまっていたりすると、時に(必ずではありません)異議申し立てが無意識から沸き上がって来る、この場合です。

 特に後者の場合は、「阻害要因の何らか」そのものが原因ではない(その要因が神経症を起こしたのではない)という因果関係ではないので、心のメカニズムというものを考えに入れないと理解しにくいかも知れません。

 分かりやすく具体例を挙げましょう。 たとえば、お母さんも働きに出ている共働き家庭の子供が、親から充分構ってもらえないまま育ったとしましょう。この子の場合、親から充分に構ってもらえないという「欲求不充足」は、この段階では「生活が苦しいんだから仕方がない」とか「お母さんも働いてくれてることで不自由なく生活できているんだ」という具合に不満感情を処理できているとします。 この子の場合は、その後これに倣って不満感情を安易に何か適当な理由を見付けて処理してしまう癖(コンプレックスの一種です)を身に付けてしまいます。 大抵は大人になるまで、これで不都合は特になく過ごせてしまいます。

 大人になって恋愛をするようになって問題が出て来ました。 それは相手に少しでも不満を感じると直ぐに別れてしまうのです。 相手と話し合ってとか、気持ちを確かめ合うとかの発想が無い(正確に言えば、話し合うなり、気持ちを確かめるなりの手続きが必要だと頭では分かっているのです。が、心理的にこれより先に「適当な理由を見付けて」不満感情を独り勝手に処理してしまう方を選んでしまうということです。)のです。 これでもまだ本人は「自分はあっさりしている恋愛関係を好むからだ」としか思っていません。 結婚願望は強く持っているこの人は、こういった事を何度も繰り返してゆく内に、結婚願望だけが宙に浮いたように肥大化して行き、焦る気持ちが日に日に強くなっていきます。 今ではこの人は「お見合マニア」「カップリング・パーティー荒らし」の異名を取るまでになっています。 しかし、相変わらず少しお付き合いをしては、関係が深まる以前に別れるを繰り返しています。

 端から見たこの人は、結婚(もしくは付き合える異性を得る)を達成する為の行動が「内容のない儀礼」と化しています。 これは立派に神経症です。

 少し回りくどくなったかも知れませんが、この例のように阻害要因(欲求不充足)が神経症の直接原因になるのではなく(なる場合もあるが)、この阻害要因の結果生まれた心理的癖、これが生きて行く内にどこかでその人の人生に決定的に不都合を持たらす瞬間がやって来て初めて、神経症という形を取るのです。

 つまり神経症とは「これまでのやり方、生き方では、もうやって行けないよ」という無意識からのサインだと言えます。

 ところが、これが分かった処で、その人はそれまで心理的癖つまり「決まり切ったパターン」で切り抜けて来ただけなので、新しいやり方、生き方を編み出せるほど「心が柔軟ではない」ので、袋小路に迷い込んでしまうわけです。

 これがまた、より神経症傾向を助長します。神経症の人が同じパターンの行動を何度も何度も繰り返すのは、この袋小路に迷い込んで同じ所をグルグル回っている心理状態を、象徴的に表現していると言えます。

 つまり自分独りで考えても袋小路の深みにドンドン入り込んで行ってしまうし、この心理状態を理解していない人に相談しても [まず、迷路に迷い込んでいる事が理解して貰えない] [迷路に迷い込んでいるのは理解して貰えても「なんで、そんなとこに迷い込んだの?」と言われたり「そのくらいの迷路なら迷わずに出て来れるでしょ!」と言われたり] で [自信を喪失したり] [無用に傷付いてしまったり] で、これがより一層の深みに陥れられる事になりやすいので、心理専門家の力を借りるのが賢明です。

 「そういう気がする」というものも含めて身体症状(若しくは、その訴え)を伴っているケースが少なくないので、どこから、またはどの程度、心理因なのか、器質(身体)因なのか、素人判断は禁物ですし、心理因が明確に確認されるケースでも、と同時に身体因も存在することが少なくないので、まずはお医者さまの診断を受けて、次に心理療法家の元を訪れる、というのが物事の順序として正しいです。

神経症はありとあらゆるところを通路として顕現します。

鬱症状:
鬱病のそれと見分けが一般の方には付きにくいと思いますが、鬱状態とそうでない時とが割とハッキリ場面によって識別出来るものは、神経症性の鬱だと言えます。 心療内科医などは、どっちであるかは問わず、ともかく鬱症状を呈している事実には変わり無いというところで対処する傾向にあり「あれもこれも "鬱" 」と十把一絡げに鬱患者を量産している現今の傾向は正直感心しません。 最近(2011年1月加筆時点)「双極性障碍」と呼ばれるようになってきているものの病像がかなりこれと重なるのは事実です。
不眠症状:
入眠困難なだけ(一旦寝てしまえれば案外と爆睡)が神経症。早期覚醒(寝てもちょっとのことで目が覚めてしまう)が鬱病だと一応目安的には言えます。 また過覚醒と云って睡眠、休息状態になること自体が出来ない病的な興奮状態もあります。こちらは心的外傷性精神障害(含むパニック障害)の典型症状の内の一つで双極性障碍も子の症状を呈する時があります。
強迫症状:
意図とは反して、または半無意識理にやらずには居てられない行動や言動、または意識のコントロールを無視、逸脱して勝手に出てしまう身体反応を総称して云う。

 具体的には、手など体の部位を必要以上に(時に皮が剥けて出血してても尚)洗い続ける清潔恐怖症、拒食症、過食症、依存症全般(アルコール嗜癖、タバコ嗜癖、セックス嗜癖、仕事嗜癖、趣味嗜癖、ギャンブル嗜癖、買い物嗜癖、散財嗜癖、ゲーム嗜癖、コンピューター嗜癖、、、あげればキリがない)、儀式的行動(お風呂に入るときは必ず右足からとか、行きと全く同じルートを辿らないと帰れないとか、異性との食事は必ずイタリア料理とか、、、いわゆるゲン担ぎ、ジンクスの類も「度が過ぎたもの」は神経症だと言えます)。
感覚異常:
強迫症状と密接に関連している事が多い。

 例えば、摂食障害(過食、拒食)は、満腹である筈なのに食べたい欲求が止められなかったり、空腹なのに食べ物が喉を通らなかったり、特定の食べ物だけがやたらに美味しく感じたりと、食欲の感じ方が狂っている状態です。

 セックス依存は好きな人には不感になったり、セックス自体出来ない(拒絶感情が出てくる)などを伴っているケースが大半。また「嫌いと感じた人に限って」(ミスタイプではありません!)セックスしたい欲求を強く感じる対象となる逆のケースも多々あります。

 幻聴、幻視、妄想もこの範疇に入れて良い。
対人恐怖:
対人緊張とも云う。

 赤面症(顔面だけに留まらず全身火照ったり、蕁麻疹の類が出るのも、これに含めれるケースがある)、人混み恐怖、パニック障害、吃音引き篭り(これの全てが対人恐怖ではない)、人嫌いで動物に話しかけるなどもこれに含めて良い。
心身症:
心理的問題が身体症状(または身体反応)に転化されたもの。(以下の症状があれば必ず神経症ということではないが、神経症性と関わりが疑われるという意味)

 喘息、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、不感症、インポテンツ、アレルギー性の諸症状、原因不明の皮膚炎、頭痛、頭重、アトピー性皮膚炎、生理不順、月経前症候群、神経性の下痢、ニキビ、吹き出物、脱毛症、動悸、不整脈、、、など。 特に、精密な医学的検査を受けて身体的原因らしきものが見当たらないという場合が、心理因の疑いが濃くなります。
心気症:
身体症状を訴えるが、症状の実態が存在しないもの。
悪夢:
同じ内容の夢を何度も繰り返し見る。 夢のことが頭から離れず、仕事等日常生活に支障を来たす。 夢を見ている最中の感情の動きが激しく、身体異常を喚起したり、不眠の原因になったり。
妄想[1]
古くは神経症では妄想はない、とされていましたが、現在では神経症でも妄想が顕現するケースがある事は常識です。

 統合失調症と同じくやはり対人関係妄想が主流で、統合失調症との違いは、統合失調症のそれが絶対的確信に満ち当人にとっては絶対的事実であるのと違って、神経症の妄想[2]は「そうじゃないかと思う」「そうじゃないかと考え始めると夜も眠れない」というように、確信ではなく、邪推、憶測、取り越し苦労の程度の酷いものであること。

 幻聴、幻視:感覚異常の範疇のものとは別。

 人の声が聞こえるなど、妄想、対人恐怖との関連が深いものと考えられる。

情緒障害:
上記の症状の全てに情緒障害はつきもの。

文責:庄司拓哉 2002/01/212011/01/17加筆修正

----[ 脚注 ]---------------------------------------------------------------------------
  1. 妄想:厳密には、発生由来、因縁が推測不可能な統合失調症のそれを妄想、発生由来、因縁が推測可能なこれ以外は念慮と呼び区別するのが精神病理学的に正しいのですが、一般的にどっちも混同して妄想と呼ばれている現実を踏まえ、これに従った。
  2. 故に、これは念慮

-- ※参考文献一覧 --
最終更新日:2012年4月20日


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