素直に弔慰を表する気持ちにはなれない。

米BOSE創業者のA・ボーズ氏死去 – SankeiBiz(サンケイビズ)
http://www.sankeibiz.jp/business/news/130714/bsb1307141411000-n1.htm

一時は音響関係のエンジニアになりたくてそっち方面の勉強をした身としては。

「自然な音の再生」への追求から「(自分達がそう判断する)良い音をクリエイトする」に発想を転換したというのがBOSEのエポック・メイキングだから。
前者はいわゆるHi-Fi・・・High Fidelity 「高忠実度(再生)」の略・・・で、この考えを真向から捨てて、特にロック、ポピュラーにターゲットを絞って「小気味よく(威勢よく)聴こえるサウンド」を目指した、これがBOSEである。
Sonyがウォークマンを発売し爆発的にヘッドフォンで音楽を聴くというカルチャーが広まっていったのと、BOSEが登場し世に浸透してゆくのとが時代を共有しているのは偶然ではない。ヘッドフォンで音楽を聴くというカルチャーは、家の外に音楽を気軽に持ち出すという外形的カジュアル性(ファッション性)の問題だけでなく「ヘッドフォンから耳に入る音」という“不自然極まりない音” [1] が標準と認識が変わる・・・これを誤認識だと旧世代が幾ら言ったところで物心付いて音楽を能動的に聴き始める年齢になった時にヘッドフォン・ステレオが身近に在った世代はそれを普通の音と認識する・・・この流れを作り定着させてしまったウォークマン。この流れを逆手に取ってこの“新しい好み”に合わせた“新しい良い音”のするスピーカーを開発し、その目論見は見事的中しブランドを確立するに至ったBOSE [2] 。この意味でウォークマン、BOSEの功罪は非常に大きいのである。 [3]
片やのHi-Fiの雄であるDIATONEはじめとした日本のオーディオ・メーカーが、この時期から総崩れに凋落していったのとは対照的。「オーディオ・メーカー」という言葉がもはや死語同然なのからも分かること [4]
ウォークマンなくしてBOSEは存在し得ず。また、この二者なくしてiPodは存在し得ていないだろうと言って大袈裟ではない。

今やこれを言っても信じる人は、その筋の好事家くらいしか居ないだろうが、音源から全て本当のHi-Fiに徹した音響装置からは「そこに本当に実物が存在しているかのような実在感のある音」しかも「そう言われればそう聴こえる」というレベルではなく「音が鳴った瞬間に場の空気が変わる」レベルで、文字通りリアルな音が聴かれるのである。「本当の意味でステレオとはどういう音か」を啓蒙していた最左翼の長岡鉄男氏も2000年に既に故人となっている。

上述のように功のみならず罪の部分も大きいのではあるが、とまれ、一つの大きい時代を切り開いた先人であったことは否定のしようがない。
ご冥福を祈ります。

——–[ 脚注 ]—————-
  1. 音響特性としては幾ら頑張っても100Hz以下の重低音を再生不可能。無理に再生させようとすると逆に聞き苦しい音になるだけなので潔く諦めて150Hz〜200Hz辺りにわざとピークを作って聴感上低音が出ていると思わせる音作りが一般的。BOSEの音作りもこれに似ている
  2. BOSEがコンパクト・スピーカーからスタートしたのは偶然ではない
  3. BOSEがその地位を確立していくのを見るに連れ「ああ、“マルチ・モノ を ステレオ と思い込んでいる誤解”は未来永劫解けないまま終わるな」と思ったものだ
  4. 放送局向けのプロ用機材として一部生き残っているのみ